【対談】関西医科大学総合医療センター 血液腫瘍内科 岡田 昌也病院教授 × 血液腫瘍内科 石井 一慶診療教授
血液がん治療の新たな選択肢
免疫療法の導入に向けて
手術療法、抗がん剤療法、放射線療法に加え、がん治療の第4の柱として期待されている免疫療法。血液がんにおいて高い成績が報告され、導入準備が進む関西医科大学総合医療センター血液腫瘍内科の先生にお話をうかがった。
難治性がん患者を救う
がん免疫療法
末梢血幹細胞を採取する遠心型血液成分分離装置(幹細胞採取機器)。血管から採取するので患者の負担が軽い
血液がんの最新治療
石井
2019年に国内で承認されたCAR-T(カーティ)療法は、血液がんの新たな治療法として注目を集めています。患者さん自身の免疫細胞を強化し体に戻すという細胞療法で、決められた施設基準をクリアしなければ提供できない治療法のため、当院では2023年4月に同種移植や細胞免疫療法のエキスパートである岡田先生をお迎えし、施設認定を受けるための準備を進めています。
岡田
CAR-T療法は、悪性リンパ腫や白血病、多発性骨髄腫といった血液がんに対して優れた治療効果が報告されています。まだ十分な結果は確認されていませんが、固形がんへの治療効果も期待されています。
従来の治療法と比べて
石井
治療を受けられるかどうかは、患者さんの症状によって異なります。抗がん剤や放射線など標準治療で効果が不十分だったり、効果はあったものの再発してしまったりした患者さんなどが対象になります。
岡田
治療コストの高さなど問題点も顕在しているCAR-T療法ですが、患者さん自身の免疫細胞を体に入れるので、抗がん剤や骨髄移植といった従来の治療法と比べて副反応が軽く、QOLをできる限り下げずに提供できる治療法でもあります。
石井
岡田先生がいうように、他者の免疫細胞を移植するわけではないので比較的体の負担が少なく、強力な治療が難しい高齢者にも取入れやすい治療法となるのではと考えています。
注目している治療・検査法
石井
CAR-T療法以外に、BiTE(バイト)抗体を用いた別の免疫療法にも注目しています。BiTE抗体は免疫細胞とがん細胞に同時に結合し、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすい仕組みを作る薬剤です。これはCAR-T療法と違い、施設基準がなく適応があれば当院でも投与することが可能です。
岡田
診断に関しては「どの遺伝子が異常を起こしているのか」「治療が効いていない原因は何か」といった判断に役立つ遺伝子検査が非常に進んでいますよね。一人ひとりの遺伝子異常に合わせた治療法を選択できるようになると治療成績が向上し、がん患者さんの経済・身体的負担の軽減にもつながるのではないかと期待しています。
導入に向けて
岡田
当院でも他人の造血幹細胞を用いた免疫療法である同種移植、そしてCAR-T療法を提供できるようソフトとハードの両面を充実させていくことが今後の目標です。
石井
そうですね。同種移植の治療実績は、CAR-T療法の施設認定を受けるためにも必要な要素となっています。かつて不治の病といわれ治すことがほとんど不可能だった血液がんですが、医療技術の発展とともに希望の持てる疾患に変わりつつあります。同種移植やCAR-T療法でしか助けられない患者さんのためにも、1日でも早く当院で治療提供できるよう準備を進めてまいります。