関西医科大学総合医療センター
担当医
朝子 幹也 病院教授
関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長/関西医科大学卒/医学博士、日本耳鼻咽喉科学会専門医・専門研修指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医・代議員/アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の手術治療に精通。各種ガイドラインの作成にも携わる
[テーマ]
増え続けるアレルギー患者と対策の推進
有病率が年々増加
アレルギー領域の
底上げを図る
複数の診療科が連携し
診断・治療・管理を実施
日本では花粉症を含めたアレルギー性鼻炎に、約二人に一人が悩まされているということをご存知だろうか。アレルギー性鼻炎の有病率は年々増加傾向にあり、2019年に行われた調査によると20年間で約1.5倍に増えているという。がんのように寿命の短縮に直接的に関わるケースは少ないものの、くしゃみや鼻づまりといった症状は集中力や判断力を低下させ、仕事や学業など日常生活に支障をきたすことも少なくない。ほかにもアトピー性皮膚炎や食物アレルギーなど、アレルギー疾患に悩む患者を複数診療科が連携し、横断的・総合的に診療できる体制が必要だと考え、政府は2014年にアレルギー疾患対策基本法を施行。アレルギー疾患対策の一層の充実を図るため大阪府下では、関西医科大学附属病院を含む4病院がアレルギー疾患拠点病院として指定された。関西医科大学総合医療センターはその協力病院として位置づけられ、咳や喘息、気道アレルギーをはじめ、市中病院や診療所では診療が難しいとされる食物アレルギーにも対応している。
同院では「心に慈愛、手に匠」をキーワードに難易度の高い手術に技術を持って向き合い、患者に寄り添う医療を目指している
豊富な人財により実現する
幅広い治療の選択肢
鼻の粘膜をレーザーで照射し、アレルギー反応を鈍くするレーザー治療。今や定番となっているこの治療法を、世界に先駆けて開発したのが同院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科だ。朝子先生はレーザー治療を先導的に行ってきたほか、難治性の好酸球性副鼻腔炎の手術療法にも手腕を発揮。「当科には鼻科手術指導医が2名在籍しており、鼻科手術の標準化にも尽力しています。これほど充実した体制は全国的に見ても珍しく、他地域の大学病院から手術のご依頼をいただくことも多いです」。また近年では、治療薬を使った舌下免疫療法を導入。アレルギーの原因物質を少しずつ体内に入れ免疫をつくる治療法で、根本的な体質改善が期待できる。一方で3~5年間、毎日欠かさず薬の投与が必要な根気のいる治療法でもあるため、同院では通院による注射で免疫を獲得する皮下免疫療法も柔軟に取入れている。治療効果が最大限になるまで最初の3カ月程度は週に1度の通院が必要となるが、その後は月に1度の通院で治療が可能になる。ほかにも患者の生活スタイルやニーズに合わせて免疫療法と手術療法を組み合わせるなど、幅広い選択肢を提供できる専門性と技術力の高さが大きな強みとなっている。
朝子先生は日本鼻科学会臨床ハンズオンセミナーの委員長として立ち上げから関わり、モデルを用いた鼻内内視鏡手術トレーニングのシステムを構築。今では毎年多くの先生が技術を学んでいる
大学内外の若手医師の育成を様々な形で模索。2023年からは「関西鼻科学を語る会」を立ち上げ阪神5大学の垣根を越え、教育の機会を創出している
国内有数の専門医として
情報発信・人材育成に尽力
取材の最後に、アレルギー疾患の領域における今後の目標や展望についてうかがった。「まずは花粉症問題に関して、医療機関へのアプローチをより一層進めてまいります。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は花粉症の有病率の増加を受け、2023年に花粉症重症化ゼロ作戦というプロジェクトを立ち上げました。2030年ま
でにQOL(生活の質)の悪化につながる花粉症の重症化ゼロを目指して啓発活動を行うもので、私もその一環として先生方、特にアレルギー非専門の先生方に向けた医療推進に取組んでいます。また食物アレルギーに関しても、現在診療ガイドラインの作成に携わっています。今は食物アレルギーの患者さんが、どの科でどんな診療を受ければいいのか分からないという状況に陥るケースも多く、診療ガイドラインを通して標準的な治療方針や最新の治療法を示すことで、一人でも多くの患者さんに最良の医療を届けることが目下の目標です」。自施設はもちろん、ほかの大学病院の若手への手術研修など、後進の育成にも積極的に取組む朝子先生。病院の垣根を越えた情報発信・人材育成により、今後もアレルギー領域全体の底上げを目指していく。